「正月太りをしてしまった」
「血液検査の結果が悪くなった」
最近、体重の増加や感染症対策で、健康やダイエットに関心が高まっています。
さまざまな健康法やダイエット法が出回っていますが、体重を減らしたり血液検査の結果を改善するために、注目されるものの一つに「油」があります。
むやみやたらに嫌われる油ですが、実は人間にはとても大切な栄養素の1つです。
とりすぎは健康を害する可能性がありますが、油の質を意識して必要な量をとらないと、逆に健康を害する可能性があります。
油は今とても注目されており、健康に良いと言われる油も多く出回っています。
しかし、健康に良いといわれる理由やそのとり方については、きちんと理解できずに使っている方も多いようです。
今回は、体に大切な油の役割と、健康にプラスになる油の使い方について、考えてみましょう。
実は重要な栄養素!脂質と油の役割
まずは、油を「栄養」の観点からお話しします。
人間が生きていくために必要となる「エネルギー」を産生する栄養素を、「エネルギー産生栄養素」といいます。
エネルギー産生栄養素のうち、油は「脂質」に分類され、一番エネルギー産生率が高い優秀な栄養素です。
この3つの栄養素は摂取するバランスがとても大切で、それぞれ必要な量をしっかりとることが健康に生活できるポイントになります。
「脂質」と聞くと、「体重が増える」「健康やダイエットの大敵」と考える方が多くいます。
たしかにとり過ぎや、油の質を間違えると肥満を招き、生活習慣病の原因にもなってしまいます。
しかし、とらなすぎもエネルギー不足や体の組織を作れなくなるなど、健康を害してしまいかねません。
ここでは、必要な油の量と役割について考えてみましょう。
脂質と油の役割
「脂質」は、私たちが活動するための大切なエネルギー源です。
「脂質」は私たちの体内で、中性脂肪やリン脂質、コレステロールとして存在し、細胞膜やホルモンの材料となるとても重要な栄養素です。
植物油や一般の食品に含まれる脂質は、主に「中性脂肪」です。
「グリセロール」に、3つの「脂肪酸」が結合したかたちをしています。
この「脂肪酸」は、栄養学的に重要な成分です。
脂質の1つ「油」は、健康や美容に欠かせないさまざまな大切な役割があります。
<油の役割>
・肌に潤いを与える
・油に溶けやすい脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)の吸収を高める
油が足りないと、肌がカサカサになったり、効率の良い栄養の吸収ができないことがあります。
必要な量をとり、効率よく使うことが大切です。
良い油と悪い油は「脂肪酸」の違い
油の主成分は「脂肪酸」といい、その種類により「良い油」と「悪い油」に分けることができます。
脂肪酸は、「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」という2つに大きく分けられます。
さまざまな油はそれぞれに分類され、性質によりメリット・デメリットがあります。
飽和脂肪酸は重要なエネルギー源の1つですが、とりすぎるとLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が増加してしまい、動脈硬化や心疾患・糖尿病・肥満などのリスクが高まると言われています。
一方、不飽和脂肪酸はコレステロール値を下げ、生活習慣病に対する効果が期待されている注目の脂肪酸です。
飽和脂肪酸をいかに減らし、不飽和脂肪酸を上手にとるかが、健康のカギになります。
健康に欠かせない「不飽和脂肪酸」には種類がある
健康を維持するために必要な「不飽和脂肪酸」には、さまざまな種類があります。
その種類によって、体に作用する内容や油の種類が違います。
不飽和脂肪酸には、体内で作れない「多価不飽和脂肪酸」(必須脂肪酸)と、体内で作ることのできる一価不飽和脂肪酸(非必須脂肪酸)があります。
科学的構造の違いにより分けられており、3つのオメガ系列に分けられています。
不飽和脂肪酸のなかでも「オメガ3系(n-3系)」に属するα-リノレン酸やDHA、EPAは健康に良い効果が特に認められる成分です。
しかし、体内で合成できない「必須脂肪酸」のため、意識して食べ物から摂取する必要があります。
<オメガ3(n-3)系脂肪酸の効果>
・α-リノレン酸・・・血圧低下作用。血管を拡張させ、血液の流れをスムーズにする。
・EPA(エイコサペンタエンサン)・・・中性脂肪低下作用。医薬品としても利用されている。
・DHA(ドコサヘキサエンサン)・・・認知機能改善効果。「n-3系脂肪酸」の中で唯一“脳”に取り込まれ、“脳の活性化”にも関わると言われている。
このように、不飽和脂肪酸にも種類や効果もさまざまです。
特に食物からしか摂取できない「必須脂肪酸」を意識してとることは、健康に欠かせないポイントになります。
「見えない油」を減らすのが健康のカギ
私たちが健康のために油を制限するなら、「見えない油」を減らすのが大切になります。
油には、「見える油」と「見えない油」の2種類があります。
・見える油・・・植物油やバターなど、普段の調理で使う油。
・見えない油・・・食品に含まれている油で食べる時は意識しにくい油。
日本人の脂質摂取量を見ると、全体のおよそ8割を「見えない油」、残りの2割を「見える油」から摂取していると言われています。
油は健康に悪いという意識から「見える油」を制限しがちですが、見える油には必須脂肪酸やビタミンなど体に必要な栄養が多く含まれています。
健康のために制限が必要なのは、「見えない油」です。
見えない油には、中性脂肪やコレステロールを増やすと言われている飽和脂肪酸が多く含まれています。
健康のために油を制限するなら、摂取する割合の高い「見えない油」に気を配り、「見える油」を食事で上手にとることが大切です。
何を選ぶ?どのくらいとる?油の種類と摂取のコツ
エゴマ油やアマニ油など、「体に良い油」(いわゆる「健康オイル」)をスーパーなどで見かけることが多くなりました。
「体に良いと聞いたことはあるけれど、何に良いのかわからない」
「使い方がわからない」
「油の種類の違いがわからない」
そんな方が多いのではないでしょうか。
脂肪酸の説明のとおり、油にはそれぞれさまざまな性質や効果があります。
健康に良いといわれる油は価格が高いものが多いため、むやみやたらに使って意味がなくなってしまってはもったいありません。
自分にはどの油が必要なのか、どのくらい使えばよいのかなどをしっかり知って、効果的に油を利用しましょう。
オメガ3系(n-3系)の油は「えごま油」と「アマニ油」がおススメ
不飽和脂肪酸の中でも、健康に良いといわれるn-3系の油の代表的なものには「えごま油」と「アマニ油」があります。
えごま油とアマニ油には、不飽和脂肪酸の「α-リノレン酸」を多く含みます。
えごま油とアマニ油はスーパーなどで手軽に手に入り、「身近な健康オイル」として馴染みがある油です。
熱や光、空気で酸化しやすく高温での調理に向かないため、「かけて食べる」という方法で摂取するのがおススメです。
<おすすめの食べ方>
・ドレッシングの油として
・納豆や豆腐にかけてまろやかさをUP
・みそ汁やパスタなどの料理の”仕上げ″にかけてコクUP
みそ汁やパスタなどの温かい料理も、一緒に加熱をせず食べる直前にお皿の上でかけて食べる方法であれば、油の酸化の心配はありません。
光や空気でも酸化しやすいため、一度開栓したら早めに使い切るように心がけましょう。
1日に必要な摂取量の目安は小さじ1杯程度です。
継続して毎日利用すると効果的です。
オメガ6系(n-6系)の油は「ゴマ油」や「グレープシードオイル」
不飽和脂肪酸のn-6系の油は、普段の料理でお馴染みの「ゴマ油」や「グレープシードオイル」が代表的です。
・ゴマ油・・・ゴマに含まれる油を絞ったもの。焙煎したゴマを絞った茶色いゴマ油が一般的ですが、焙煎せずに絞った無色透明な白ゴマ油もある。炒め物や揚げ物、調理の仕上げの香りづけなどさまざまな用途で使用可能。
・グレープシードオイル・・・ブドウの種から抽出した、無色透明で香りも無い油。抗酸化作用があるビタミンEの他、ポリフェノールも豊富。食材の味を邪魔しないため、マリネやドレッシング、パスタなどさまざまな用途で使える。
・その他・・大豆油、べに花油、コーン油など普段使いする油
どの油も、生でも加熱しても使える油のため、さまざまな料理に利用することができます。
n-6系の油は血中コレステロールの低下作用があると言われていますが、とりすぎるとLDL(悪玉)コレステロールだけでなくHDL(善玉)コレステロールも低下させてしまうことがあります。
普段使いする油が多いn-6系の油は、必要以上に多くとる意識を持つ必要はありません。
普段の料理の中で、適量をとるようにしましょう。
健康オイルの代表「オリーブオイル」はオメガ9系(n-9系)
元祖健康オイルの代表者「オリーブオイル」は、n-9系の油です。
酸化に強いオレイン酸が主成分で、毎日摂取すると冠動脈性心疾患のリスク低減効果が期待できるとされています。
コレステロール値上昇を防ぐだけではなく、肌の乾燥も防ぎ、活性酸素の生成を抑えてシミやシワなどの予防にも効果があると言われています。
ビタミンE、ビタミンA、ポリフェノールも含んでいます。
オリーブオイルにはいくつかの種類があります。
<オリーブオイルの種類と使い方>
・エクストラバージンオリーブオイル・・・オリーブの実を絞ってろ過したままのもの。オリーブの香りや苦みが強い。
・(ピュア)オリーブオイル・・・オリーブの実を絞ってろ過した後、精製されたもの。
オリーブオイルは、どちらの種類も加熱調理に使用できます。
オリーブの香りや苦みを活かしたい料理には、エクストラバージンオリーブオイルを使うのをおすすめします。
ただし、エクストラバージンオリーブオイルは、加熱によって独特の風味が落ちたり、特有の栄養が損なわれる可能性があるため、サラダやカルパッチョなどにかけて、オリーブの風味を楽しんで食べる料理をおすすめします。
摂取量は、毎日大さじ1〜2杯程度を目安にし、普段の料理に使う油として利用しましょう。
食材からも摂れる!とりたい油はコレ
良質な油は植物油だけでなく、食材から摂取することができます。
次のような食材にも注目してみましょう。
・青魚(さば、さんまなど)、サーモン
必須脂肪酸(n-3系)の「EPA(エイコサペンタエン酸)」や「DHA(ドコサヘキサエン酸)」を摂取できる。
・ナッツ類
ナッツ類の脂質は不飽和脂肪酸に分類されます。LDL(悪玉)コレステロールを下げる働きがあると言われるオレイン酸が豊富。
・アボカド
アボカドの脂質はナッツ類と同じ不飽和脂肪酸に分類され、オレイン酸が豊富。n-3系のα-リノレン酸も含んでいる。
バランスの良い食事の中に、意識して良質な油をとれる食材を取り込むよう心がけましょう。
年齢別で気をつけたい、「油のとり方」
私たちの体は、年齢によって必要な栄養量が変わってきます。
体を作る成長期と健康な体を維持し、病気を予防して生活する成人・シニア世代では、油のとり方も異なってきます。
いくつになっても健康で、元気に過ごすために、年代別に油を上手にとるポイントを考えてみましょう。
子ども世代は成長に必要な「エネルギー」と「栄養素」を良質な油から!
成長する子どもにとって、油は必要なエネルギー量を確保するだけではなく、体のさまざまな器官を作り出してくために欠かせない栄養素です。
子どもはその成長の過程で、思うように身長や体重が伸びないことがあります。
<子どもの成長が思うように伸びない理由>
・好き嫌いや小食で食べる量が少ない
・活動量が多い など
成長期に体の成長や活動量に見合ったエネルギー量がとれないと、身長の伸びに影響したり、普段の生活の中で集中力が続かないことで勉強の質が落ちるなど、さまざまな影響が出てしまいます。
油は、少量でたくさんのエネルギー量を持つ「効率の良いエネルギー源」です。
上手に良い油を利用することで、必要なエネルギー量を確保し、成長を助けることができます。
特にとりたい油は、不飽和脂肪酸n-3系のDHAです。
DHAは、脳の発達にとても重要な役割があることが報告されており、勉強や心身の発達が著しい成長期には欠かせない栄養素です。
n-3系の油や多く含む青魚などを食事にとりこむように心がけましょう。
また、油は食品の「苦み」を和らげてくれる効果があります。
好き嫌いが多い野菜の「苦み」は、油で調理することで少し和らぎ、食べやすくなります。
特に人参などに含まれるβーカロテンなど脂溶性のビタミンは、油と一緒にとると吸収率が上がるため、料理に上手に油を利用しましょう。
ただし、油の中でも体に悪い影響を与える「見えない油」は、できるだけとらないことが大切です。
脂肪が多い肉やスナック菓子の油は、できるだけとらないように気をつけましょう。
肉は赤身でたんぱく質が多い物を選ぶ、油が多いスナック菓子は小皿にとりわけ最小限にするなど、食べ方に工夫が必要です。
成長期に必要なバランスの良い食事を心がけ、足りないエネルギー量は上手に油を利用しましょう。
成人世代は「疾病予防」を意識した油のとり方を
生活習慣病の発症が心配される成人世代は、「見えない油」をいかにとらないようにするかが健康のカギになります。
仕事をして外食などお付き合いの機会が多くなるこの世代は、偏った食事になりがちです。
知らず知らずのうちに、「見えない油」をとりすぎていることがあります。
外食の機会をできるだけ減らしたり、動物性の脂肪が多い食事を避けるなど、油の質を意識をして過ごすことが大切です。
また、コロナ禍で家で食事をとることが多くなっているため、家で使う「見える油」を意識することで健康に近づくことができます。
n-3系の油のえごま油やアマニ油を利用する、魚は青魚を積極的に食べるなどの意識をすることで、中性脂肪や血圧、コレステロールが上がることを防ぐことにつながります。
普段食べている食事の油の内容を考える時間を持ち、健康な体を維持しましょう。
シニア世代はエネルギー量確保が大切!「見える油」を積極的に利用
咀嚼力(そしゃくりょく)の低下や食べる量が減ることで、必要な栄養量がとりにくくなるシニア世代は、少量で効率よく必要な栄養量をとるかが大切になります。
要介護に陥る原因の1つに必要な食事量がとり切れていない「低栄養」があり、体が虚弱になったり、意欲が低下するなどさまざまな弊害を引き起こします。
しかし、食べる量を増やすということはとても難しいため、食べる内容や食べ方を工夫して効率よく栄養を摂ることが大切です。
1回に食べる量が少なく、一日の必要なエネルギー量がとれていない場合は、食べる回数を増やし、少量で高エネルギーをとれる油を意識してとります。
そのほかにも、シニア世代が油をとる効果はたくさんあります。
<シニア世代が油をとる効果>
必要なエネルギー量の確保・・・油は「少量・高エネルギー」の効率の良いエネルギー補給源。
認知症予防・・・n-3系のアマニ油やえごま油は、脳の機能維持に効果的。
嚥下の補助・・・唾液の量が減り、口の中がパサつきがちな方は、油を食材にかけることで口当たりや飲み込みを助ける。
便秘の改善・・・油が排便の際の潤滑油となり、スムーズな排便を促す。水分補給と合わせて適度な油をとることが大切。
骨粗鬆症予防・・・カルシウムの吸収率を上げるビタミンDやKは、油と一緒に取ると吸収率が上がる。
特にn-3系の油は脳の機能の維持や認知症予防に効果的なため、シニア世代には積極的にとってほしい油です。
アマニ油やえごま油などをみそ汁やご飯、おかゆにスプーン1杯足すなど、普段の食事にプラスしてみましょう。
シニア世代の方々は特に油対して悪いイメージを持っている方が多いため、健康に良い「見える油」の効果的な使い方を知り、健康の維持に役立てましょう。
まとめ
健康の悪者にされがちな「油」は、人間の体には欠かせない栄養素です。
ただし、その種類によって健康に良い影響も悪い影響も与えることがあるため、油の性質をしっかり理解してとることが大切です。
飽食の現代は食べ物が溢れ、気軽に手に入れることができますが、その分自分自身で選択する能力が必要になります。
手にした食材にはどんな油が入っているのか、「見えない油」をいかに意識して摂取を減らし、健康に良い「見える油」をしっかりとることを心がけることが大切です。
日々の積み重ねが将来の健康につながることを改めて考え、健康にプラスになる油のとり方を実践していきましょう。