両親にはいつまでも自立し、元気でいてほしいですよね?
日本は生活の利便性やサービスが充実しているため、高齢の方のみの世帯や一人暮らしも増えています。
しかし今、元気だった親が気づいたら介護が必要になっていた、ということがコロナ禍で多くなっています。
要介護の予備軍ともいうべき「フレイル」の状態に陥っている方が、増えているのです。
特に活動的だった方が外出・行動自粛によって、身体的・精神的にダメージを受ける傾向があり、コロナによる環境変化が原因で陥ったフレイルを「コロナフレイル」とも呼ぶようです。
なかなか顔を合わせることができないコロナ禍だからこそ、大切な親の健康と食について一緒に考えてみましょう。
早めの対処が大切!「フレイル」を知りましょう
「フレイル(Frailty)」とは、「健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体機能や認知機能の低下が見られる状況」を指します。
簡単に言うと、フレイルに気づかずにいると、要介護の状態に近づいてしまうのです。
反対に、フレイルに気付いて早めに対処できれば、健康で元気に過ごせる状態に戻ることができる状態でもあります。
まずは「フレイル」というものをしっかり知ることが、介護予防の第一歩です。
「フレイル」のチェック方法や対処法を確認し、早めに対処できるようにしましょう。
「フレイル」って何?
フレイル(Frailty)とは、筋力面や精神面などの身体機能が低下することによって心身が弱っている「虚弱」の状態です。
特に食事の量や質が不十分になった「低栄養」が主の原因になり、そこに加齢による運動機能や認知機能の低下が加わることで、フレイルの状態が加速して行きます。
目に見える病気という状態ではないため、本人は気づかず見過ごしてしまいがちです。
しかし、フレイルの状態は、その後どれだけ長く自立して健康で楽しく過ごすことができるかを分ける重要な境目になります。
チェックポイントを知り、フレイルに早く気づきましょう!
簡単フレイルチェック
フレイルを判断するには、次の5つの項目を確認します。
①体重減少:6か月以内に2~3kg以上の体重の現象があったか
②倦怠感:理由なく疲れた感じがするか
③活動量:軽い運動や定期的なスポーツを週に何回程度行っているか
④握力:利き手の握力が男性26kg未満、女性18kg未満になっていないか
⑤歩行スピード:1m/秒未満になっていないか
上記の項目で、3つ以上当てはまる場合は「フレイル」、1~2つでも当てはまると「プレフレイル」と呼ばれる要注意状態になります。
フレイルを予防する3つの柱とは
フレイルを予防する、3つの柱は次の通りです。
・栄養をしっかり摂る(低栄養予防)
・適度な運動
・社会生活の充実
この3つの柱は密接にかかわっていて、どれが欠けても他の要素に影響し、フレイルの悪化を招いてしまいます。
この中でも注目していただきたいのが、「栄養をしっかり摂る(低栄養予防)」です。
必要な量の食事をしっかり食べることで、活力が湧き・運動を行うことができ・社会参加をすることにつながっていくからです。
そのため、フレイル予防として特に「低栄養予防」に重点を置いて、国や自治体が様々な取り組みを行っています。
フレイル予防のキーポイント「低栄養」とは
「低栄養」とは、エネルギーとたんぱく質が欠乏し、健康な体を維持するために必要な栄養素が足りない状態をいいます。
こんな飽食の時代に「低栄養」というのは無縁に思えるかもしれません。
しかし高齢になると、身体的機能の低下などが原因で栄養や水分を十分摂れなくなることがあるのです。
代表的な原因としては、
・噛む力や入れ歯が合わないなどの口腔機能の低下でうまく食べられなくなる
・消化吸収機能が落ちる
・1回の食事で食べられる量が少なくなる
・買い物や調理など食に関わる活動が難しくなる
などがあげられます。
厚生労働省が発表した「令和元年度国民健康・栄養調査の概要」によると、65歳以上の低栄養傾向の者(BMI≦20kg/㎡)は、男性12.4%、女性20.7%という結果でした。
さらに、年齢が上がるにつれその割合は増える傾向のようです。
しかし、低栄養は自分でも気づかないことが多いのが現状です。
特に高齢夫婦の二人暮らし又は独居の人は、家族と同居している人と比較して低栄養の割合が2倍高いという報告もあります(※1)。
最近ちょっと痩せたかな、疲れやすいな、と思ったら低栄養に陥っている可能性があるので要注意です。
※1 『体力科学』vol.54,No.1,2005:地域在宅高齢者における低栄養と健康状態および体力との関連(權ら) 参照
低栄養になると起こるリスク
低栄養になると、以下のような症状がおこる可能性があります。
・認知機能低下
・気力がなくなる
・免疫力や体力の低下
・病気にかかりやすい
・筋肉量や筋力の低下
・骨量減少
・骨折の危険増
肥満が良くないことは多くの人に知られていますが、実は肥満の人よりやせた人のほうが死亡率が高い傾向があることも報告されています(※2)。
※2 中年期男女におけるBMI死亡率との関連、2002、独立行政法人国立がん研究センターによる多目的コホート研究HPより(http://epi.ncc.go.jp/jphc/)
低栄養確認の一歩は「体重の推移」と「BMI」の確認
気づかず日々の食事からとる必要な栄養量が不足していたり、偏っていると、身体に様々な症状が起こります。
低栄養の早期発見のためには、BMI(BodyMass Index)という体格指数と体重の変化をこまめに確認する習慣をつけることが大切です。
【 BMIの確認方法 】
・BMI計算式 BMI(kg/㎡)=体重(kg)÷身長(m)の2乗
<日本肥満学会の定めた基準>
・18.5未満が「低栄養(やせ)」、
・18.5以上25未満が「普通」
・25以上が「肥満」※度合いで「肥満1」~「肥満4」に分類
高齢期でBMIが20以下の方は、低栄養のリスクが高まり注意が必要な状態です。
また、体重の減少も低栄養の早期発見には最も重要な指標です。
以下のいずれかに当てはまる場合は、低栄養のリスクがあると考えられます。
・体重が6カ月間に2~3kg減少した
・1~6カ月間の体重減少率が3%以上
※体重減少率=(通常の体重ー現在の体重)÷通常の体重×100
これらにあてはまる体重減少がある場合は、なんらかの原因で食事量が減ってしまっていたり、筋肉の量が落ちている可能性があります。
血圧などに比べて、体重に対する意識は低く、やせてしまっても「加齢のせい」と気にしていなかったり、体重を計っていないという方が多くいます。
適切な体重を知り、保っていくことが健康の第一歩という意識を持つことが大切です。
日々体重をチェックすることで、体重の減少にいち早く気づき対応することができます。
毎日同じ時間に体重を計る、という習慣をつけることもおすすめします。
基本は「3回の食事」を必ず食べること
生涯通して大切なことは、1日3回の食事をしっかり食べることです。
3回の食事には、次のような意味があります。
・必要な食事の量を確保し、栄養を摂る
・食べることに関わる身体機能(口や顔の筋肉、味覚・嗅覚などの五感など)を使う
・生活のリズムを整えることで自律神経の働きを整える
このように、3回の食事はみなさんが思っている以上に体に影響があるのです。
しかし、定年などで仕事などを引退し生活のリズムが崩れると朝食が遅くなり1日2食になるなど、食事回数が減ってしまうことがあります。
つい「歳を取ったら若い頃ほど食事は取らなくてもいい」と思い、食事回数が減っても問題ないと思っている方もいるようですが、実際はその逆です。
消化吸収機能が落ちて1度に食べられる食事の量が少なくなるため、3回に分けて食べないと必要な量の栄養がとれなくなっているのです。
もし3回食事をとっていても体重が減少してしまう場合は、食事の内容を見直すほか、間食も栄養補給の1つとして利用していきます。
毎食必ず取りたい「エネルギー」と「たんぱく質」の食品
体力と抵抗力を保ち、元気に活動するためにはまず「エネルギー」をしっかり摂ることが必要です。
そのうえで、元気に動くのに必要な筋肉を維持するために「たんぱく質」を十分に摂ります。
近年「たんぱく質」はしっかり摂らなければいけないという知識をもっている方が増えているようです。
しかし、「エネルギー」が足りていないと、せっかく食べた「たんぱく質」の食品が「エネルギー」として利用されてしまいまいます。
結果的に必要なたんぱく質が足りていない、という状況になってしまうのですね!
必ず毎食しっかり「エネルギー」として必要な主食(ご飯、パン、麺)を食べるようにしましょう。
そのうえで、「たんぱく質」として利用される主菜(肉、魚、卵、大豆・大豆製品)をしっかり摂ります。
【主食とたんぱく質の目安量】
●1食分の主食目安・・・ご飯は1杯程度、食パンなら6枚切り1枚程度
●たんぱく質の目安(1食)・・・肉なら薄切り肉3~5枚程度、切り身魚なら1切れ、納豆1パック、卵は1個、豆腐は小さいパック1個程度
野菜や健康食品だけでなく、バランスよく食べる
年齢を重ねると健康に対する意識が高まり、「野菜をたくさん食べる」「健康食品やサプリメントを摂る」という話をよく聞きます。
野菜を食べることは、ビタミンやミネラルを摂り、身体のバランスを整えるためにとても大切です。
しかし、その分エネルギーとなる「主食」や筋肉を作る「たんぱく質」の摂取量が減ってしまっては意味がありません。
適度な量を知り、ほかの栄養源となる食品をしっかり食べることができるよう、調理法を工夫して食べることが大事です。
【1日に必要な野菜の摂取量】
緑黄色野菜:淡色野菜=1:2として合計350g
※自分の両手のひら3杯分が目安
野菜は煮物やスープなどにしてかさを減らすことで、無理なく食べることができます。
また、「健康食品やサプリメントを意識して摂る」という方もいらっしゃいますが、食事をしっかり摂ることができていれば必要ないものです。
健康食品を安心のために摂ることで、「かえって食事の量が減る」・「食べなくても大丈夫と考える」という状況にならないよう注意が必要です。
また、サプリメントの場合は栄養素の過剰摂取から、逆に健康を害してしまうこともあるので注意が必要です。
サプリメントなどを利用する場合は、かかりつけの医師や、身近な薬剤師、管理栄養士などに相談して利用することをおすすめします。
間食も栄養補給として利用する
1回の食事量が減って3食食べても体重が減少してしまう場合は、間食も栄養補給として利用していきます。
10時や15時に次の食事に差しさわりのない程度で、必要なエネルギーやたんぱく質を摂ると、1日トータルでしっかり必要な栄養素が摂取できるようになります。
例えば、小さなおにぎりやお総菜パン、果物、ヨーグルトなどの乳製品など、3回の食事では摂り切れなかった栄養素を補給するのが理想です。
ただ、体重減少などから体力が落ちて食欲がないという方は、食べたいもの・食べやすいものを必ず食べるという習慣をつけていきます。
例えば和菓子やおせんべいなど、少しでもエネルギー源になるものを摂っていくことを優先し、体重や体力が回復し、落ち着いたら内容もより良いものに変えていくようにしましょう。
体調が悪いとき・食欲がわかないときにおすすめなのが、スーパーやドラッグストアなどで手軽に手に入る、エネルギーやたんぱく質補給のドリンク状やゼリー状の「栄養補助食品」です。
少量でたくさんの栄養素を摂取できるので、食べられないときに緊急的に利用するのにはとても便利な食品です。
しかし、体力が回復したらしっかり食事が食べられるように切り替えていくことが大切です。
単品食べにならない工夫が大切
理想の食事はありますが、高齢のご夫婦や一人暮らしの方は、買い物・準備や片付けなども含めて、品数を多く作ることは難しい現状があります。
特に朝食や昼食は、「ご飯とみそ汁や漬物」・「パンとコーヒーだけ」・「うどんだけ」の食事で終わってしまう、ということが現実のようです。
単品食べはどうしても栄養が偏ってしまい、1食でもそういった食事になってしまうと、1日に必要な栄養素が確保できなくなってしまいます。
単品食べで特に不足するのは、「たんぱく質」です。
そのため、単品食べになってしまうときも、たんぱく質の食品をうまく取り入れる意識や工夫をすることが大切です。
【たんぱく質を取り入れる工夫】
・ごはんにシラスや納豆を乗せる
・みそ汁に豆腐を入れる
・パンにチーズとハムを乗せる
・うどんに卵を落とす
など・・・
「加えるだけ」で、手軽にたんぱく質の食品を取り入れるようにしてはいかがでしょうか。
身体の健康は、日々の積み重ねです。
ほんの少しの意識と工夫が、少しずつ健康に近づく1歩になります。
食べられない理由を知り、問題を解決する
「食べないといけない」とわかっていても、食べられない理由があったらそれを解決しない限りは改善は見込めません。
低栄養は、高齢者の身体的な機能の低下が原因で食べられなくなっていることが多くあります。
【身体機能低下の原因例】
・歯の欠落や入れ歯の不具合による噛む力の低下
・飲み込む力の低下
・活動量の低下による食欲低下
・足腰の痛みなど身体的不具合により生活が不自由
・社会生活の狭まりが原因の精神的な落ち込みによる食欲低下
ほかにも原因は様々ですが、原因をしっかり確認・対処したうえで、食事の内容や量を変えていく必要があります。
実はコロナ禍で今まで元気だった方が、低栄養からのフレイルに陥る理由はここにあります。
例えば、
・感染症が心配で通院を控え、入れ歯が合わなくなっている、
・外出を控えることで運動量が減り、足腰の弱りや食欲低下につながっている
・習い事やサロンにいけなくなり、社会生活から孤立し、精神的に落ち込むことで食欲が落ちる
など
このように、外出自粛により様々な影響が出ています。
ご家族も帰省ができず、以前より離れて暮らす親との交流が減っている中で、お互いの健康を確認するのは難しいかもしれません。
電話で声を聴く・オンラインで顔を合わせ声をかけあうだけでも、ちょっとした体調の変化に気づくチャンスはあります。
コミュニケーションを図る中で低栄養に陥る原因が見られた場合は、一緒に解決できるよう考えて見ましょう。
離れて暮らしてもサポートできる!様々なサービス
離れて暮らしていると、ご自身の暮らしがある中で通ってサポートするのは難しいものです。
地域で暮らす単身世帯の高齢者のための「食のサポート」があるのは、ご存じでしょうか。
国も地域で暮らす高齢者がいきいきと過ごすことができるよう、自治体と連携して様々な取り組みを行っています。
また、民間でも利用できるサービスが展開されています。
今回は、ご家族の代わりに大切な方をサポートできるサービスを2つご紹介します。
国がサポート「健康支援型配食サービス」
「健康支援型配食サービス」は簡単に言うと、高齢者の身体的特性を配慮した調理済の食品(主にお弁当ですが、チルドや冷凍も有)の宅配サービスです。
国が地域に暮らす高齢者の方の「低栄養・フレイル対策」を主として行っている事業で、基本事業者の栄養士又は管理栄養士が利用者のアセスメントを行ったうえで実施します。
1食分を都度家まで届けてくれるため、見守りとしての役割も担っています。
宅配される食事は、「食の教材」としての意味もあります。
主食・主菜・副菜などの組み合わせを基本として栄養計算され、1回の食事の見本や日々の食事の参考にしてもらうという役割もあります。
量や食形態(固さなど)は、定期的なフォローアップの中で確認することになっているため、利用者の方の身体機能の確認にもなります。
何か問題があった場合には自治体等と連携して様々な支援につながるようになっているため、フォロー体制も安心です。
「平日の夕食だけ」・「1週間に3回昼だけ」など頼み方は様々なので、利用者の状況に合わせて活用できます。
自治体ごとに取りまとめをしていることもありますので、お近くの市町村に問い合わせをしてみましょう。
もうひとりの家族に!「家事(料理)代行サービス」
「家事(料理)代行サービス」は、サポーターがご自宅に伺い、キッチンをお借りして馴染みのある調味料やご自宅にある食材を利用して調理します。
忙しい共働き夫婦を中心に利用が増えていますが、離れて暮らす親の食事を心配したお子さんが『親のためにサポートを頼む』というパターンも増えています。
サポートする利用者の方のお好みや身体的な状況も聞き取りを行い、2・3日分の作り置きを調理します。
配食サービスとは違い、利用者の方のご希望や体調、身体的な配慮もしやすく、寄り添ったサポートをすることができます。
契約の内容によっては、簡単な家事も一緒に行うことができることも特徴の1つです。
利用者の家に伺って作るので、見守りの役割もはたします。
顔を見て会話をしながらサポートをするので、継続するうちに「もうひとりの家族」のような存在になり、サポーターが来るのが楽しみになる、という声も聞きます。
定期的な訪問と顔を合わせたサービスは、精神的なフォローの役割もあるようです。
まとめ
コロナ禍の今は感染症の対策に目がいきがちですが、その対策の裏で弊害として増えているのが「フレイル」と「低栄養」です。
コロナが終息した後、元気に生活することができなくなっていたら、一生懸命行った感染症対策も意味がありません。
感染症対策として気を付けなければいけない手洗いや消毒、三密回避などの対策をしっかり行ったうえで、お互いの顔や健康を確認する時間を作り、「フレイル」や「低栄養」を予防していきましょう。