今、空前の「たんぱく質ブーム」が到来しています。
たんぱく質は、以前はスポーツを積極的にする人が、効率の良く身体づくりを目指してとるものというイメージでした。
ところが今は、健康のため、美容のためにたんぱく質を積極的に摂取している人が多いようです。
コンビニやスーパーでも「たんぱく質」を売りにした商品が多く並び、「たんぱく質」の注目度が高いことがわかります。
しかし、たんぱく質の必要性や摂取量、不足の有無については、詳しくわからずむやみにとっている方が多いようです。
今回は、注目のたんぱく質が大切な理由や必要な量、健康のために効率よくとるポイントなどについて、詳しくお伝えします。
たんぱく質はなぜ大切?
「筋肉づくり」というイメージが多かった「たんぱく質」ですが、今は「健康のため」という意識でとっている女性が多くなりました。
たんぱく質の実態について行った調査※1によると、『たんぱく質を摂りたい理由』について聞いたところ、「筋肉づくり」よりも、「健康や美容のため」という答えが上位を占める結果となりました。
しかし、同じ調査で行った「たんぱく質」に関するクイズでは、全問正答率が低く、「たんぱく質」の知識については不足していることがわかりました。
たんぱく質について正しい知識を知ることが、効率よく必要な量をとる第一歩になります。
たんぱく質とは何なのか、体の中でどんな役割をしているのかなどについて、確認してみましょう。
体は「たんぱく質」でできている!
私たちの体の内臓・骨・筋肉・皮膚・血液・毛髪・歯・爪など体の組織のほとんどが「たんぱく質」でできており、たんぱく質の占める割合は15~20%にもなります。
体をつくるたんぱく質は毎日「合成」と「分解」を繰り返します。
合成のために必要なたんぱく質が足りないと分解のみが進み、大切な体の組織の減少につながります。
特に成長期に体が大きくなるために、また、スポーツをして筋肉を使って傷ついた分を補うためには、さらに多くのたんぱく質が必要になります。
そのため、自分の年齢や生活などに応じて必要な量を把握し、毎日の食べ物からたんぱく質をしっかりとることが大切です。
たんぱく質は体の中で分解され「アミノ酸」になる
実は、たんぱく質は食べた時状態のまま体内で使われないのはご存じですか?
体をつくるたんぱく質は、消化吸収の過程で「アミノ酸」という物質に分解され、血液によって全身の細胞に運ばれます。
エネルギー産生栄養素のひとつであるたんぱく質を構成する、20種類の有機化合物のこと。ひとつでも欠けるとたんぱく質を合成することができない。
運ばれた20種類のアミノ酸を色々な配列で連結することで、各組織に適合した10万種類もの新しいたんぱく質が合成され、体の組織となります。
つまり、食べたたんぱく質が、そのまま体の組織になるわけではないのです。
例えば、肌を綺麗にする、関節の痛みに効くということで人気の「コラーゲン」は、口から食べてもそのまま「コラーゲン」として皮膚や関節には届きません。
コラーゲン
鶏の手羽先やフカヒレ、魚の皮やウロコなどに含まれるたんぱく質のこと
私たちがコラーゲンを食べると、消化酵素によってアミノ酸やペプチド (アミノ酸が数個結合したもの) に分解され、吸収されます。
その後、体の様々な組織に運ばれてたんぱく質の合成に使われますが、吸収されたコラーゲン由来のアミノ酸やペプチドが、体内で再び皮膚やひざ関節でコラーゲンとなるかは定かではないのです。
コラーゲンは直接とらなくても、必要であれば体の中で合成されるものです。
大切なのは、必要なたんぱく質の量をしっかり摂取することです。
たんぱく質の知識をしっかり知り、適切な食品を利用することが大切です。
体を強くするためにはアミノ酸の「種類」が大事
体を健康に強くするためには、アミノ酸の「種類」を意識して食品をとることが大切です。
たんぱく質の材料になるアミノ酸は20種類あり、「必須アミノ酸」9種類と「非必須アミノ酸」11種類にわかれます。
必須アミノ酸は体内で合成できないため、食事からとるしか方法がありません。
食事からは、この必須アミノ酸をバランスよく含まれている食品を選んでとる必要があります。
また、非必須アミノ酸も体内で合成できるからとらなくても良いということではなく、体をつくるために必要な量をしっかり確保するために、十分にとる必要があります。
「植物性」と「動物性」のたんぱく質は「質」が違う
たんぱく質は、大きく分けて「植物性」と「動物性」の2種類があります。
それぞれに含まれるたんぱく質のアミノ酸の種類が違うので、偏らずバランスよく食べることが大切です。
植物性・・・植物性の食べ物に含有されているたんぱく質。豆や豆腐などの大豆製品に多く含まれている。
動物性・・・動物性の食べ物に含まれるたんぱく質肉や魚介、卵や乳製品などに豊富で、必須アミノ酸が多いのが特長。
動物性の食品の方が、身体に必要な必須アミノ酸がバランスよく含まれている傾向があります。
しかし、食品にはたんぱく質だけでなく、脂質や糖質などの栄養も含まれているので、偏って食べると、別の栄養素が過剰になる可能性があり、注意が必要です。
植物性の食品の中でも、大豆は「畑の肉」と言われるほど必須アミノ酸のバランスが良い食品です。
そのほかの植物性の食品も、アミノ酸以外の栄養が色々含まれているので、バランスよく食事に取り入れることが大切になります。
たんぱく質はどのくらい必要?
飽食の時代といわれる現代の日本ですが、たんぱく質の摂取量は21世紀に入ってから急激に減少しています。
1970年代から1990年代は1日平均80g前後の摂取量を維持しており、日本人の平均寿命が世界一に上り詰めたのはちょうどその頃です。
しかし現在は、まだ戦後といっても良さそうな1950年代と同じレベルにまで減ってしまいました。
その背景にあるのは、次のような原因が考えられます。
・痩せ志向の高まりで肉類を避けるようなダイエットをする人が多くなった
・安価・手軽で炭水化物が豊富なインスタント食品が広く普及した
つまり、私たちは選択して、たんぱく質をとらない生活を選んでいるのです。
体を維持するために必要なたんぱく質の量を知り、健康に長く生きられる体を目指しましょう。
必要なたんぱく質の量はどのくらい?
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、30~49歳の女性のたんぱく質目標量は65~103g/日です(身体活動レベルⅡの場合)。
私たちが毎日とるべきたんぱく質の量の考え方は、1日に必要なエネルギー量から換算して考えます。
このエネルギー収支バランスは、人間が病気にならず健康に暮らしていくためのベストバランスになっているため、しっかり守ることが大切です。
年齢や生活活動強度(どれだけ活動しているか)によっても違いますが、30 ~49歳の女性は総エネルギー量のうち、13~20%のたんぱく質摂取を目標とします。
たんぱく質目標量の最小値が65g/日です。
65gのたんぱく質量を食品単品でみると、ウインナーなら35本・卵は10個などの摂取になり、とても取り切れない量に思えます。
しかし実際は、食事として単品を食べるわけではありません。
食事として3食に分けてとることが大切です。
1日3食で分けると、1食あたり約22gのたんぱく質摂取が必要になります。
実際に一回に必要なたんぱく質量を食事でとるとすると、次のようになります。
たんぱく質は、肉・魚・卵・大豆製品に多く含まれていますが、主食のごはんやパン、乳製品など、ほかの食品にも含まれています。
そのため、3食をバランスよく食べることができれば、不足することはありません。
ただし、1食でも欠食したり、バランスの偏った食事をすると、残りの食事で必要なたんぱく質を補う必要があるので、不足してしまうのです。
たんぱく質不足のサインは?
たんぱく質は体を作る栄養素のため、不足が続くと全身に影響が出て「不足のサイン」が見られるようになります。
・体のはりが無くなる・・・筋肉がゆるみ、体がたるむ
・爪の割れや縦筋が現れる・・・爪は「ケラチン」というたんぱく質からできている
・髪の毛にうねり、枝毛、切れ毛が多くなる。つやが無くなる・・髪は「ケラチン」というたんぱく質からできている
・貧血(フラフラする)・・・血液の成分「赤血球」はたんぱく質からできている。
・集中力の低下・イライラ・・・体に酸素を届ける血液の「赤血球」が不足し、酸素が体に不足することで、脳が働かず、集中力がなくなり、イライラする。
・免疫力の低下(体調を崩しやすい)・・・免疫細胞はたんぱく質からできている
このようなサインが見られたときには、「たんぱく質不足」が疑われます。
若い方にこのようなサインが現れると、「何か足りないのでは」と気にする方も多いので、気づいたときに食生活をしっかり見直すことが大切です。
しかし、高齢者は「歳のせい」とたんぱく質不足を見逃しがちです。
高齢者は特に、しっかりたんぱく質を含んだ食事をとることで、様々な体の不調が改善することが多く、介護予防にもつながるのです。
たんぱく質不足の「サイン」を見逃さないようにしましょう。
たんぱく質に「とりすぎ」はないの?
たんぱく質の役割を知るほど、たくさんとりたくなりますが、とりすぎには注意が必要な場合があります。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準 (2020年版)」には、たんぱく質摂取の目標量の上限を、どの年代も総エネルギー量の20%としています。
総エネルギー量の20%のたんぱく質は、30~49歳の女性を例にとると103g/日にもなり、通常の食事からとるのはとても大変な量です。
そのため、通常はとりすぎるということはありません。
また、たんぱく質の過剰摂取によって生じる健康障害が報告されていないため、これ以上とってはいけないという「許容上限量」の設定もありません。
しかし、たんぱく質を摂りすぎてしまう、または健康を害する可能性がある摂り方として考えられるのは、主に次の3つのパターンです。
・「糖質制限ダイエット」などにより、糖質を抑えたエネルギー量分のたんぱく質を過剰に摂取する
・筋力トレーニングなどにより、意識してたんぱく質を多く含む食品を食べ続ける
・シェイカーで溶かして飲む「プロテイン」などを利用し、通常の食事に加えてたんぱく質を摂取する
一時的にたんぱく質を多くとる、期間限定で目的を持ってたんぱく質の摂取量を増やす、という場合はそれほど問題はありません。
しかし、とり過ぎや、摂取するたんぱく質の食品によっては、弊害として「コレステロールの上昇」や余分なたんぱく質として分解された物質を排出する働きを担う「腎臓」などに過剰な負担をかけてしまう可能性があります。
特に、腎臓が悪い人は、たんぱく質の過剰摂取には注意が必要です。
また、健康な人でもバランス良く、適量を摂取するのが体に1番良いのです。
たんぱく質の効率の良いとりかた4つ
積極的にたんぱく質をとりたいと思っても、むやみやたらに摂取するのは効率が悪いだけです。
たんぱく質の性質や、体の消化吸収の仕組みをしっかり理解したうえで、効率の良いとり方をすることが健康への近道になります。
ここでは、たんぱく質の効率の良いとり方を4つ、ご紹介します。
夕食にまとめて食べるはNG!「3食に分けて食べる」が効率的
たんぱく質は、毎食平均的にとることが効率よく身体で使われるポイントです。
理由は3つあります。
・3食に分けて食べないと、必要な量がとり切れず不足しがちになる
・たんぱく質は一度に筋肉合成に結びつく「上限」がある。
・朝にたんぱく質をしっかり取らないと、筋肉の分解が進みがちになる
必要なたんぱく質の量は、3食しっかり食べないと不足しがちになります。
特に日本人は夕食に多くたんぱく質のおかずを食べ、朝と昼は軽い食事になる傾向があるので、注意が必要です。
朝食・昼食に意識してたんぱく質の食品をとることが、1日のたんぱく質摂取量が不足しないためには重要になります。
また、たんぱく質摂取による筋肉合成には上限があります。
1度に十分な量を超え集中してたんぱく質を摂取しても、使い切れない余分なたんぱく質は窒素となり、肝臓や腎臓を通して尿素に分解され、尿として排泄されてしまいます。
また、1度に過剰にたんぱく質をとると、肝臓や腎臓に過度な負担をかけるため、内臓疲労につながってしまいます。
また、朝しっかりたんぱく質をとることには、もう一つ大切な理由があります。
朝目覚めたときには、夕食後から長時間にわたってたんぱく質を摂取していない状態になっています。
そのため、朝食でたんぱく質を補給しないと、筋肉の分解ばかりが進んでしまうのです。
「朝・昼食は控えめで、夕食はたっぷり食べる」という日本人の食生活のスタイルは、筋肉量低下のリスクが大きい食べ方です。
毎食意識して、平均してたんぱく質を摂取することが、体を健康に維持するためにはとても大切なのです。
+1(プラスワン)が不足解消の鍵
1日の中で不足するたんぱく質を補うためには、朝食と昼食に「+1(プラスワン)」をすることがおすすめです。
プラスワンとは、「たんぱく質の食品を、1つ多くとる」ということです。
たとえば、いつもの朝食にヨーグルトを足す、ハムをつける、卵を足すなど、そのときあるもので意識して1つ足します。
軽く食べてしまいがちな朝食、単品食べになりがちな昼食は、たんぱく質の食品を意識してとらないと、必要な量がとれません。
そのため、家で調理して食べる時だけでなく、コンビニで食品を選ぶ時、外食でメニューを選ぶときにもプラスワンをしてみてください。
それだけで、1日に必要なたんぱく質の量に近づきます。
また、間食にプラスワンすることもおすすめです。
チーズやヨーグルトなどの乳製品を食べる、おやつに牛乳を飲むなど、意識してとってみましょう。
特に高齢者は、一度に食べられる食事の量が少なくなりがちなので、間食は不足しがちなたんぱく質補給の強い味方になります。
ただし、どの年代も間食をする際は、時間と量を決めて、食事に影響しない量にすることが大切です。
「W(ダブル)たんぱく」を意識して食べる
W(ダブル)たんぱくとは、「植物性」と「動物性」のたんぱく質のことです。
食品は、含まれるたんぱく質の「質」、つまりアミノ酸の組成や吸収率が異なっています。
例えば、吸収は早いが血中に滞在する持続時間が短いたんぱく質、吸収はゆっくりだが血中の持続時間が長いたんぱく質など、それぞれに特性があります。
筋肉の合成には、そういった特性を活かして複数のたんぱく質をとることが有効になるのです。
<Wたんぱく質を意識してとるメリット>
・筋肉の合成を活性し、分解を抑制する
・吸収性が持続するので、血中たんぱく質濃度を長く一定に保てる
・植物性たんぱく質と動物性たんぱく質、それぞれが持つ栄養成分の効果が一度に得られる
「植物性」と「動物性」のたんぱく質を同時に摂取することで、相乗効果が期待できます。
偏らず、様々な食品からたんぱく質をとりましょう。
上手に「栄養補助食品」を利用する
「栄養補助食品」とは、食事のみでは必要量を摂取することが難しい栄養素を補うことを目的とした食品です。
食事からしっかりとれていれば、必要のない物です。
しかし、食事をしっかりとりたいのに、どうしてもとれないときには、強い味方になってくれます。
たんぱく質ブームにより、手軽に高たんぱく質の食品や栄養補助食品が手に入ります。
味や形状の選択肢も多いので、自分に合ったものを探すことができます。
例えばこんな場面で活用が考えられます。
・仕事が忙しいため時間がなく、食事がとれない日がある
・体調が悪く、食べ物をうけつけない
・トレーニングなどにより必要な栄養が増えたが、食事からはとり切れない
・咀嚼能力が落ち、食事がうまくとれない
・一回の食事量が少なく、必要な栄養をとりきれない など
基本的に、栄養は食事からとることが一番望ましい形です。
食事は栄養をとるという目的だけではなく、五感や身体の様々な機能をつかうため、脳や内臓、筋肉の維持にとても大切な役割があるからです。
しかし、どうしても食事がとれず、栄養が不足してしまう場合には、栄養補助食品の力を借りるのは悪いことではありません。
また、自分の必要な栄養量や不足分をきちんとわかっていないと、結局不足は解消されなかったり、過剰に摂取しすぎて逆に健康を害してしまう可能性もあります。
栄養補助食品を使用する場合には、管理栄養士や栄養士に相談し、しっかり必要な量を確認したうえで、必要な期間利用するようにしましょう。
まとめ
健康志向の高まりから注目されている「たんぱく質」は、食事からの必要な量の摂取が難しいもののように思われています。
そのため、様々な形で商品化され、特別な栄養素として食事とは別にとる場面が多くなっているようです。
しかし、戦後の貧困の時代と違い、飽食の現代では3食しっかりバランスよく食べることができていれば、不足するはずのない栄養素です。
そんな中摂取量が減り、特別な物のように扱われてしまうのは、忙しさから欠食をしたり、誤ったダイエットや健康の知識により、自ら偏った食生活を選んでしまっている事が原因です。
たんぱく質を効率的に、不足せずに摂取するためには「3食バランスよくしっかり食べる」ということが、何より大切になります。
たんぱく質の不足が気になったら、まず自分の食生活が改善できないか、考えてみましょう。