「年末年始は、高齢者が食べ物を喉に詰まらせる事故に注意!」
よく聞く言葉ですが、
「自分の親はまだ元気だから大丈夫」と思っていませんか?
食物が原因でおこる窒息は65歳くらいから発生件数が多くなり、年齢が上がるほど事故を起こしやすくなります。
また、窒息事故は転倒や溺水などほかの事故よりも重症化し、死亡率が高い恐ろしい事故です。
さまざまな食べ物を口にする機会が多い年末年始は、特に窒息事故の発生が多くなります。
「自分の家族や友人はまだ大丈夫」と思わず、事故を起こさないために必要なことを考えてみましょう。
高齢者の食べ物などによる窒息とは
高齢者の不慮の事故の大きな原因は、主に3つあります。
・喉にものを詰まらせる「窒息」
・つまずいて転ぶなどの「転倒」と階段や梯子等から落ちる「転落」
・気管に水が入る「溺水」
消費者庁によると、不慮の事故を起こす高齢者はとても多く、毎年約3万人が亡くなっています。
また、不慮の事故のほとんどは家庭内で起こっています。
新型コロナウイルスの影響で家で過ごす時間が増えていることもあり、家庭内の不慮の事故は増える可能性があるといわれています。
不慮の事故の中でも「窒息」は、重症化につながる率が高い恐ろしい事故です。
高齢者の食べ物が原因の窒息事故について、しっかり考えてみましょう。
窒息は高齢者の「不慮の事故」の中で重症化率が高い
高齢者が起こす「不慮の事故」の原因の中で、「窒息」は一番重症化につながる恐ろしい事故です。
重症化しやすい理由は、窒息事故の特性にあります。
窒息は物が喉につまり気道がふさがることで、息ができず、体中に酸素が供給できなくなります。
脳や臓器に酸素が不足すると、細胞は機能が維持できなくなります。
機能を失った部分は元に戻ることは難しく、何らかの障害が体に残ってしまったり、亡くなることにつながってしまうのです。
人間は呼吸が停止してから3分を過ぎると死亡する可能性が高くなり、15分を過ぎるとほぼ100%の死亡率となります。
呼吸が停止してしまう「窒息」は、短時間で死に至る可能性が高いのです。
総務省の「令和2年版救急・救助の状況」によると、救急車の現場到着所要時間は全国平均で約8.7 分です。
事故が発生してからすぐに救急車を呼んだとしても、救急車の到着前に早急に適切に処置ができないと、重篤な状況に陥ってしまうことがわかります。
窒息事故は、発生から短時間で重症化してしまう恐ろしい事故なのですね。
餅による窒息事故のほとんどが「1月」に起こる
窒息事故は年間通して発生しますが、特に餅による窒息死亡事故の約4割が1月に発生します。
その中でも、正月三が日に発生することが多く、1月に発生する窒息死亡事故の約半数を占めています。
これは、冬場の特に正月に餅を食べる機会が多いことが原因と考えられます。
餅は噛み切りにくい、喉にはりつきやすいなどの特性があることから、窒息事故に結びついてしまうことも理由の1つです。
年間通して食べるという方は少ない餅を食べる機会が多い年末年始は、特に窒息事故に注意が必要です。
65歳以上から窒息死亡事故は増加
窒息による死亡事故は、65歳以上で年間死亡者数の約9割をしめます。
特に80歳以上になると死亡者数が特に多くなることから、高齢になるほど窒息事故は増加することがわかります。
ここで注目したいのが、「65歳」という年齢です。
65歳は、まだ食物により窒息をおこすような年齢に感じないかもしれません。
見た目では65歳はまだまだ若く、窒息の心配などしない方が多いのではないでしょうか。
でも実際は、噛んだり飲み込んだりする機能が少しずつ衰えてくる年齢です。
「昨年は大丈夫だったからまだ平気」と思っていると、思いがけず事故を起こしてしまうことがあります。
家族や友人が65歳を超えたら、食べ物による窒息事故を起こさないように、しっかり注意していく必要があります。
高齢者が窒息事故をおこす食品と原因とは
高齢者が窒息事故を起こしやすい原因は、大きく分けて2つあります。
・食品の形状によるもの
・高齢者の体の機能低下によるもの
窒息を起こす理由と原因をしっかり知ることで、事故を防ぐことができます。
ここでは、高齢者が窒息事故を起こす原因について考えてみましょう。
窒息事故を起こしやすい食品とその形状
窒息事故を起こしやすい食品は、餅のほかにご飯、おかゆ、肉などがあげられます。
高齢者がのどに詰まらせる事故が多い食品には、いくつかの特徴があります。
・主食など食べる頻度が高い
・粘着性がある食品で、喉にはりつきやすい
・季節や行事により「久しぶり」に食べる食品で、体の機能低下に気づきにくい
主食など日常的に食べているものが上位に入っていることから、普段の生活の中でも事故は起こりうることがわかります。
また、粘着性があり喉にはりつきやすい食品は、誤って気管を塞いでしまうと改善しにくいことが考えられます。
餅はのどに詰まらせやすいと認識しているにもかかわらず、年末年始に事故が多発する食品です。
「昨年は大丈夫だったから、今年も問題なく食べられる」という認識は、とても危険です。
事故を起こしやすい食品を食べるときには、過信せずに注意して食べることが大切です。
窒息事故の大きな原因は「高齢者の体の機能低下」
高齢者が食事で窒息事故を起こす大きな原因は、加齢による体の機能低下です。
<窒息事故を起こす原因となる加齢による体の機能低下>
・噛む力の低下
・飲み込む力の低下
・唾液(だえき)分泌量の減少
・咳をする力の低下 など
加齢による体の機能低下は突然起こるものではなく、徐々に進行して行くため本人は気づきにくいことがあります。
身近に高齢者がいる人は、次のような症状が無いか確認してみましょう。
窒息の事故を防ぐためには、本人だけではなく、周りの人も常に体の機能低下が起こっていないか確認することが大切です。
身近に高齢者がいる人は、普段の生活の中で体の機能低下がないか様子をみたり、注意するように声をかけることが大切ですね。
窒息事故を防ぐためのポイント4つ
一度起こってしまうと重症化しやすい「食事による窒息事故」は、生活で気をつけるポイントをしっかり押さえて生活することで防ぐことができます。
高齢者本人が気をつけることはもちろんですが、一緒に食べる家族や友達がお互いに注意しあったり、離れて暮らす親にもこまめに注意の声掛けをすることが大切です。
ここでは、食事による窒息事故を防ぐためのポイントを4つご紹介します。
食品をのどに詰まりにくい「大きさ」や「固さ」などに調整する
窒息事故を起こしやすい食品は、あらかじめのどに詰まりにくい大きさや固さなどに調整することで、事故のリスクを減らすことができます。
<喉に詰まりにくくする工夫>
・小さく切る(間違って飲み込んでも詰まらない大きさ)
・噛み切りやすい切り込みを入れる(噛む力が弱くても噛み切れる工夫)
・パサパサしたり口の中でばらけやすい食品はとろみをつける(むせない、喉につかえない工夫)
年末年始に喉に詰まる事故が多い「餅」は、噛み切りにくく、粘着性があるため事故を起こしやすい条件がそろっています。
噛み切ったと思っていても、粘着性があるため口の中でまたくっつき、誤って大きいまま飲み込んでしまうことがあるのです。
事故を起こしやすい65歳以上の年齢になったら、特に餅を食べる際は小さく切って食べることを心がけましょう。
ゆっくりよく噛んで、唾液(だえき)をしっかり活用する
食物を喉に詰まらせる事故を防ぐためには、よく噛んでゆっくり食事をし、唾液を活用して食べることが大切です。
食物を詰まらせる事故は女性より男性の方が多い傾向がありますが、これは早食い・よく噛まないことが原因していると考えられます。
ゆっくりよく噛んで食べることには、いくつかのメリットがあります。
・少しずつ口に入れる・・・口の中の食物を飲み込んでから、次の食物を口にいれる。詰め込まないことで、飲み込む量を減らし、喉に詰まりにくくする。
・急いで飲み込まず、できるだけ噛む・・・唾液の分泌が多くなり、食べ物が柔らかく、細かくなる。
日常的に食べる速度が早い方は、どんどん口に食べ物を入れ、あまり噛まないうちに飲み込む傾向があります。
多少の喉の詰まり感なら、お茶で流し込んでしまう・・・という方は要注意です。
普段の食べ方を振り返り、どんな食べ物も常に「ゆっくりよく噛んで」唾液の分泌を促して食べるようにしましょう。
また、唾液が出にくい・口が乾きやすいと感じている方は、食べる前に次の準備をしてみましょう。
<唾液の分泌を促す・飲み込みを助ける工夫>
・食べる前に会話や口の体操をして、唾液の分泌を促す。
・水分を少量とり、口の中や喉を潤してから食べる。
・パサつく食べ物は、とろみをつける調理の工夫をする。
一番唾液が出にくいのは、朝起きてすぐです。
朝食を食べる前に、少し口を動かす工夫をしたり、お水や汁物を口に含んでから食物を食べることがおすすめです。
また、コロナ禍で人と話す機会が減り、マスクを常に着けていることで口の機能が低下していると言われています。
食事の際にたくさん唾液が出るように、普段から口を動かすことを意識して生活しましょう。
姿勢に気をつけ、集中して食べる
「食べる姿勢を気をつけること」や「集中して食べること」は、あたりまえだからこそ見逃されがちなポイントです。
椅子にしっかり座り、背中を伸ばして良い姿勢で食べることは誤嚥防止にはとても大切です。
良い姿勢で食べると、喉から食道までがまっすぐになるため途中で食べ物がつかえたり、誤って気管に入ってしまうことを防ぐことができます。
高齢者は筋肉の衰えなどから徐々に背中が丸く曲がってしまう方が多くいます。
そのため、食べ物が喉や食道の途中で止まってしまい、止まる場所によっては窒息を起こしたり誤嚥(ごえん)性の肺炎に結びついてしまうことがあります。
食べるときは背中をまっすぐにするように意識をしたり、背中にタオルをあててできるだけまっすぐになるように補助するなどの工夫が必要です。
また、食べることにできるだけ集中できる環境も大切です。
<食物を詰まらせる事故に気をつけたい場面>
・お正月など、にぎやかであわただしく食べているとき
・食べている途中で電話や来客があって、慌ててしまうとき
・お酒を飲みながら食べているとき など
笑ったりしゃべりながら食べていると、噛んでいる途中のものを誤って飲み込んだり、噛む回数が少なくなって食べ物が大きいまま飲み込んでしまうことがあります。
また急な来客などにより、慌ててしまうときも同様のことが起こりがちです。
口に食べ物が入っているときは集中してよく噛み、しっかり飲み込んでから会話を楽しんだり、次にする行動をすることが大切です。
また、お酒を飲んでいると、注意力や集中力が落ちてしまいがちです。
いつも気をつけていることができなくなり、事故に結びついてしまうことがあります。
お酒を飲んでいるときは、食べるものには十分に気をつけ、周りにいる人が注意して様子を見るようにしましょう。
食事を楽しく食べることは、とても大切なことです。
しかし、窒息などの事故がおこってしまうと、楽しい時間がつらい時間に変わってしまいます。
楽しく食べているときこそいつも以上に食べることに注意し、事故が起こらないように気をつけましょう。
喉につまりやすい食品はできるだけ1人で食べない
喉に詰まりやすいとわかっている餅などの食品を食べるときには、1人で食べないことが大切です。
どんなに喉に詰まらせないように気をつけていても、事故が起こってしまうことはどうしてもあります。
事故が起こったときに、早期に発見して応急処置を迅速に行うことができることが、その後の体の状態に大きくかかわります。
餅やだんごなど、詰まる可能性が高い食品を食べるときは、家族や友人などができるだけ一緒にいるときにすると安心です。
また、もし窒息の事故が起こってしまった時には、日本医師会の「救急蘇生法」を参照に迅速に対処をしましょう。
また、対応により喉の異物がとれた場合も、念のために医師の診察を行うようにしましょう。
まとめ
高齢者が喉に食べ物を詰まらせる事故は、不慮の事故による死因の一位です。
窒息を起こすことにより短時間で重症化しやすいため、一度事故が起こってしまうと何らかの障害が残ってしまう可能性があります。
のどに詰まらせやすい食品の多くは餅などの主食で、年末年始・特に三が日に起こることが多いため、正月は特に注意が必要です。
高齢者の食べることに関わる機能低下は気づきにくいため、「まだ大丈夫」という過信は食物の窒息事故を引き起こしかねません。
高齢者本人だけではなく、周りの家族や友人など、食べている状況や日常の様子を確認しながら、食べるときに気を付けるポイントを声掛けしていくことが大切です。
いつまでも楽しく食事の時間を持てるよう、窒息事故が起こりやすいこの時期に、大切な家族や友人に声をかけあいましょう。